大阪地方裁判所 平成4年(ワ)6050号 判決 1993年8月27日
原告
須賀井俊明
被告
礒本正人
主文
一 被告は、原告に対し、金一〇〇万四七五〇円及びこれに対する平成四年三月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
三 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金二八六万〇八二一円及びこれに対する平成四年三月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、追突事故で傷害を受けた被追突車両運転者が追突車両運転者に対し、民法七〇九条、自賠法三条により人損・物損の損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実など(書証及び弁論の全趣旨により明らかに認められるものを含む。)
1 事故の発生
(1) 発生日時 平成四年三月三日午前一時一五分ころ
(2) 発生場所 守口市大庭町二丁目二三五番地鳥飼大橋上路上(大阪中央環状線、以下「本件事故現場」という。)
(3) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(大阪七八て四〇九六、以下「被告車」という。)
(4) 被害車両 原告運転の普通乗用自動車(大阪三三ひ一三七六、以下「原告車」という。)
(5) 事故態様 原告車が信号待ち停止中のところ、後方から被告車が追突したもの
2 被告の責任
被告は、被告車両を自己のために運行の用に供していたものであり、また、本件事故は、被告の前方不注視により惹起されたので、民法七〇九条により原告の被つた全損害につき、自賠法三条により原告の人損につき、賠償すべき義務を負う。
3 原告の受傷、治療経過
原告は、本件事故により、頸椎捻挫の傷害を負い、片上外科病院で通院治療した(相当治療期間については争いがある。)
4 債権譲渡
原告車は、訴外株式会社須賀井の所有であるが、同社は、本件事故による被告に対する損害賠償債権を平成五年四月二二日原告に譲渡し、同月二三日到達の書面で被告に通知した(争いのない事実、甲九の1、2)。
二 争点
損害額(とくに、以下の点である。)
1 慰謝料
原告は、本件事故当日から未だに通院治療を継続しているとして、これを前提として慰謝料を請求するのに対し、被告は原告の傷害は平成四年六月一八日には軽快し症状固定したものであるから、これに基づき慰謝料が算定されるべきであると争う。
2 代車料
原告は、本件事故のため平成四年四月三日から同年六月一日まで代車を使用したとしてその費用を請求するのに対し、被告は相当な修理期間は同年三月一九日までであるから原告の請求は過大であると争う。
3 評価損
原告は、原告車の価格は本件事故当時二七五万五〇〇〇円であつたが、本件事故により修理後も二二〇万六〇〇〇円に下落したとして、その差額を求めるのに対し、被告は、原告車は修理後技術上の欠陥が残つているわけではないから客観的な価値の低下はなく、また、修理後も使用して損害が現実化していないものであるから認められないと争う。
第三争点に対する判断
一 損害額(括弧内は原告主張額)
1 治療費(二万二〇六〇円) 二万二〇六〇円
治療費として二万二〇六〇円を要したことは当事者間に争いがない。
2 通院雑費(三八九〇円) 〇円
証拠(甲四の1、2、原告本人)によれば、タクシー代として平成四年三月二三日に六二〇円、同月二七日に三二七〇円支出したことは認められるが、診療報酬明細書(乙一の2)による限り、右期日に通院したことは認められず、他にこれが通院のための支出であると認める証拠はない。
3 慰謝料(七〇万円) 三〇万円
証拠(甲二、乙一ないし三の各1、2)によれば、原告は本件事故当日受診した片上外科で病名を頸椎捻挫とされ、今後一四日間の通院加療を要すると診断されたこと、自覚症状として頸部から左肩にかけての痛みを訴え、他覚的症状として第五・第六頸椎間に後屈時に上りが認められたものの、スパーリング・ジヤクソン各テストは陰性であつたこと、同年六月一八日まで通院治療したが(実通院日数二八日)、経過は良好で、主治医も原告の症状は軽快し、同日症状固定との所見を示していること、その後、同外科には全く通院していないことが認められ(原告は本人尋問において現在も自覚症状を訴えるが、仕事があるにせよ、その後通院していなかつたことも事実であり、通院治療を要する程度の症状とは認められない)、右の傷害の程度、通院期間等の事情を総合すると、原告の慰謝料としては三〇万円が相当である。
4 代車料(一二六万八九六〇円) 三三万二六九〇円
証拠(甲五の1、2、乙五、原告本人)によれば、平成四年三月三日から同年三月一九日まで被告が代車を提供し、その費用二八万〇一六〇円(消費税を含む。)も負担したが、その後、同年四月三日から同年六月一日までは、原告が自己負担で代車を使用し、その費用として原告が一二六万八九六〇円(消費税を含む。)をレンタカー会社に支払つたことが認められる。
そこで、本件事故と相当因果関係の認められる代車使用期間、代車料について検討する。
証拠(甲六、乙四の1、2、証人溝口潔、同小畑満、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告車は事故当日、購入先である大阪トヨペツトに搬入されたが、原告から同社に修理依頼はなされず、取り合えず預かつたのみであつた。
(2) 翌四日に被告の契約する住友海上火災保険株式会社(以下「住友海上」という。)の委嘱を受けた住友損害調査株式会社の技術アジヤスターである小畑満が損害・修理費用の確認と見積協定のため大阪トヨペツトに赴いたところ、原告は原告車と同種同等の車両の提供を求め、修理の協定はできず、また、原告は大阪トヨペツトに修理の依頼をしなかつた。
(3) 原告は平成四年五月九日に、大阪トヨペツトに修理依頼をし、修理は、原告車がリヤパネル、リヤフロアを介しルーフパネルにまで損傷があつたのでフレーム修正機を使用するなどして同月三〇日に終了し、大阪トヨペツトは修理費用として八一万九〇一一円(消費税を含む。)を要したとしたが、住友海上との間で、同年六月二六日、二万五一五七円値引きし、七九万三一〇〇円(消費税を含む。)とすることで協定が成立した。
(4) 前記小畑は右協定成立後作成した自動車車両損害調査報告書において、作業待ち時間などを考慮して原告車の修理期間を三〇日と記載した。
以上の事実が認められる。
右によれば、修理着手まで時間が経過したのは専ら原告の対応によるものであるから、原告主張の期間、修理のため代車を必要としたとは到底認められないが、修理するか否かの検討期間、修理の順番待ち、修理作業に要する時間等を勘案すると本件事故と相当因果関係の認められる代車使用期間は三五日と認めるのが相当である。
なお、原告は、本人尋問において、住友海上からは一切示談の話がなかつた、また、修理の順番待ちで事故当日修理を依頼したにもかかわらず六月一日まで修理を要した旨の供述をするが、示談交渉が全くなかつたとの供述はそれ自体不自然であり、また、納品明細書(甲六)記載の受付日である平成四年五月九日について、原告は、原告が指示して大阪トヨペツトが修理にかかつた日であると供述もしているものであり、また、前記認定事実に照らしても、右原告の供述部分は採用できない。また、修理依頼が事故当日であつたとする報告書(甲八)、あるいは三月一三、四日であつたとする溝口証言も存するが、前記認定に照らし採用できない。
そこで三五日間の代車使用料を算定すると、一日当たり一万七〇〇〇円であるから(乙五によると被告が提供した代車の一六日間の使用料が消費税を含み、二八万〇一六〇円である。)、六一万二八五〇円(消費税を含む。)となるが、一六日分の二八万〇一六〇円は被告が負担しているから、原告の代車使用料相当損害額は、三三万二六九〇円(消費税を含む。)となる。
5 修理費(七万五九一一円) 五万円
前記認定によれば、原告車の修理費として七九万三一〇〇円を要し、原告の契約する保険会社が七四万三一〇〇円を大阪トヨペツトに支払つたことが認められ、原告の損害として填補されていない修理費は五万円となる。
6 評価額(四九万円) 二〇万円
証拠(甲六、七、乙四の1、2、証人溝口潔、原告本人)によれば、原告車は、平成二年四月初度登録をし、本件事故当時四万五八八二キロメートル走行した国産車であり、本件事故により後部損傷を受け、フレームに歪みも生じ、前記認定の修理費用を要したこと、修理後、大阪トヨペツトのセールス担当者が評価損として四九万円と査定したこと、修理後も原告が使用しているが、ドア、トランクに不具合も残存していることが認められる。
ところで、本来、車両の損害は修理によつて原状回復がなされたと認めるのが相当であるが、損傷の程度により修理によつても完全に修復しえない欠陥が残存することも否定できず、そのような場合客観的価値の低下が認められるとして評価損を認めるべきである。本件もフレームに歪みが生じていたことに照らすと、原告の供述する不具合も軽視できず、評価損を認めるのが相当である。右の見地からすると、修理費用等を勘案すると二〇万円をもつて相当とする。
原告主張の評価損は、その算定の前提たる基本価格もアジヤスターである小畑満の査定額とも異なるなど必ずしも信用性が認められず、また、評価損の算定方法も明らかでなく、さらに、原告は原告車を引き続き使用しているもので、原告主張の評価損相当の損害が顕在化しているものでもないことなどによると、原告主張額は認めることはできない。
7 小計
右によると、原告の本件事故による損害額は、九〇万四七五〇円となる。
8 弁護士費用(三〇万円) 一〇万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は一〇万円と認めるのが相当である。
二 まとめ
以上によると、原告の本件請求は、被告に対し金一〇〇万四七五〇円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成四年三月四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。
(裁判官 高野裕)